ラプア 第3話

残像

城内を案内されて最初に着いた部屋は、食堂だった。キッチンの中までは見せてくれないようだが、キッチンから一人の幽霊が出てきた。

「ったく、どっかの執事さんのせいでただでさえ面倒な料理が一人分増えちまったじゃねーか。」

出てきた幽霊は、白い料理服にとても高い帽子を被ったコックさんのようないでたちだった。…体が骨だけであること以外は。

ポリュビオスはニコニコしながら、ニコニコしている彼の前に立った。何か二人の雰囲気がよろしくない。そんな二人を止める気配もなく、スタは彼の紹介をし始めた。

「あいつはな、うちの料理担当のデルリっつって生前はめちゃくちゃ有名な料理人だったらしいんだよ。ただポリィがかつてここで勤めてた料理人の方がよかったって言って以来、どうもこの調子でな。ま、俺は触れたモン全部燃やすせいで味わからないんだけどな。」

「ふーん。」

「って、えっ?幽霊って食事…するの?」

「まあ、必要ではないな。他の幽霊は味が分かる奴らがほとんどだからデルリが嬉しがって手料理を振舞ってやってるのと、みんなが集まる機会をポリィが作りたいって言ったのとでみんな揃って食事してるって感じだな。」

「でも仲良くないように見えるけど。」

「うーん、表面上はそうなんだけど実はそうでもないっていうか…」

「どういうこと?」

「いや、仲は確かに良くないけどデルリはそんな中でもちゃんとポリィに料理作ってるし、ポリィはポリィでデルリが料理に使う食材を仕入れたりしてるし。まあ要はどっちも本当の自分の意思を伝えるのが下手なんだな。」

「…その気持ち、わかるような気がする。」

「何だ?嬢ちゃん、昔の事でも思い出したか?」

「…まあね。」

ポリィとデルリのいざこざが終わって、わたし達は一度食堂を後にした。もう夜になり始めているので燭台の点いてない城内の廊下は薄暗く、スタがライト代わりになっている。廊下には不気味だがどこか見覚えのある気がする絵、甲冑、そしてのっぽの古時計なんかが飾られてあって今にも動き出しそうな気配もする。

しばらく歩いていると、背後から何かの気配を感じた。スタとポリィは気付いていないようだが、なんとなくその気配が近づいてさえ来ている気がする。たった今、悪寒を感じ始めた。それからさらに一刻、また一刻と寒くなってきた。体からぞわぞわっ、ぞわぞわっと寒気が感じられるようになり、つうっと冷や汗が垂れてきた。正体こそは掴んでいないが、幽霊だ。最後にはガシャンガシャンという金属音を耳にして、わたしはその正体を確信した。振り向こうか、振り向かまいか。いや、今振り向けば大丈夫なはずだ。気配も金属音もまだまだそこまで近くはない。

・・・・・、ここだっ!

「ばっ」と振り向いたところには何もいない。…気のせいか、でも気のせいにしてはあの悪寒はどうしても腑に落ちない。仕方なくわたしが前を向き直した矢先に

「ばあ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁっ!!!」

と不意打ちを仕掛けてきた。どうやらスタとポリィはわかっていたようで、スタに関しては全身火の玉のくせにありもしない腹を抱えてゲラゲラと大笑いしている。びっくりしたわたしは

「きゃぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁっ!」

という今までにないぐらいの大きな叫び声を出した。彼らはわたしの叫び声に驚いたようで数秒間硬直していた。それから予想した通り、わたしを驚かしたのは絵と甲冑と古時計の幽霊だった。硬直が解けたスタが三人の紹介をした。

「そこの絵の恰好したやつが元画家のアクセで、甲冑来てるやつが元兵士のスペンサー。それから古時計のやつが元時計職人のアルミンだ。みんないい奴だから仲良くしてやってくれ。」

わたしは逆に余計に驚かせてしまった事を申し訳なく思いつつ、「よろしく」と言って握手を交わした。ちなみにスペンサーはもともと手があるが、アクセとアルミンにもスタと同様に手が生えているので握手は問題ない。そうこうしているうちに

「ぐううぅぅっ、きゅるるるるるっ」

とわたしのお腹が鳴った。

「どうした?腹でも痛いんか?」

とスタが気に掛けてくれたが、そうではない。

「いいや、安心したらお腹減っちゃって。」

「そろそろデルリが夕食を作り終えている頃でしょうから城内案内は一旦後にして食堂に戻りますか。」

「さ~んせ~い!」

とアクセが甲高めの声で賛同した。スペンサーとアルミンの重量級コンビは息ピッタリで頷いた。

食堂までの道を戻る最中に再び何かの気配を感じた。思わず振り向いてみると、ごく遠目に十二、三歳ぐらいであろう少女がふうっと消えたのが見えた。ぼーっとしているわたしにスタが

「ほら、行くぞ。」

とわたしを急かした。

拝啓、天国の父様、母様へ。あれから更に新しい友達ができてとても楽しい今を送っています。それにしても先ほど見た少女の残像のようなものが気がかりでしょうがないです。ビーより。

Categories: