自由ー中場(JIYU-TYUBA)TAKE1

十五年前、世界では動画サイト内での犯罪レベルの奇行及び違法アップロードなどの数々の問題に目を向け、それらを処理するための法律である動画法が多くの国で作られた。日本もその例外ではなく、政府は動画管理省、縮めて動管省を設け、最大手の動画サイトであるYouTubaを除く全ての動画サイトを合法的に閉鎖。さらには、国家にとって有益であるとみなされた、YouTubarなる動画投稿者以外が動画を投稿した場合は、違法YouTubarとして重い刑罰を受けることとなった。この物語はそんなこんなで動画の自由投稿化を目指した者たちの話である。

と、まあこんな小難しいことなんて覚えなくていいからとりあえず肩の力抜いて読んでね~。

TAKE1

ヒヨコは成長しても飛べないがコケコッコーと鳴ける

「おい77番!キサマもこれにて出署だ。これからは動画なんて上げるなよ!フハハハハ!」

「へーへー。この程度のことで十年も居させられちゃあ、そんな気も失せるっつーの。てかもうカメラのレンズどころか虫メガネですら見たくねーよ。」

「虫メガネはよく分からないけどそれはよかった。虫メガネはよく分からないけどな。それと、これからは看守なんていないが一人でお風呂入ったり着替えたりしなきゃならないからな。ちゃんと自立すること、看ちゃんとのお・や・く・そ・く。」

幼稚園児のお泊り会か!

「んじゃっ、さよならのハイタッチ!せーのっ!」

「やるかっつの!」

…マジで何だあのキャラブレッブレの看守。あんなヤツいたっけなぁ?

「ミーンミンミン!」

「あ~、暑っつ。六月ってこんなに暑かったっけなぁ。それはそうと、十年ぶりに出署したはいいけど何しようにも金がねーかんな。ったく、動管省の許可なしにちょっとYouTubaで動画投稿して、ちょっとYouTubaで再生回数稼いだだけで懲役十年とかふざけてやがる。まあいいか出署したわけだしとりあえず情報収集、っと。」

よっ!俺、去川 映叶(さるかわ えいと)。やたら運動神経がいいからサルとかどうとかってよく言われたりするんだけど実は結構気に入ってたりはする。とまあそんな俺も御多分にもれず、動管省に捕まった者の一人だ。

この辺もちょいちょい変わってきてるけど、この町と近くの商店街はあんまり変わってなくて安心したな。ニュースニュースっと。

ほえ~、最近首相変わったんだな。場中 勲(ばなか いさお)っつーのか、変な名前。

ん?って、ぬわぁっっっっ!!

な、何なんだコイツ。ばっ馬鹿な、警察署前でスマホ片手に動画を撮っていやがる。(しかも自撮り)ど、どどど動管省の奴らに見つかったら厄介なことになるぞ。こっ、ここここんな奴に絡まれたら俺の塀の中の十年がラーメンのようにマシマシになっちまう!とっ、ととととりあえず落ち着いて早急にここから離れなけれ…

「見つけたぞぉ!」

フラグ回収速すぎじゃねえかぁぁぁぁぁっ!

ヤツらが着ているのは白と黒の斜め縞模様の服だ。横縞は囚人、縦縞は阪神、斜め縞は動管省って十五年前から決まってんだ。奴らには言い訳なんか通じない。とにかく俺は関係ないし、逃げるしかねー!

俺がフィギュアスケーター顔負けの超速ターンを決めて逃げようと足を動かそうと構えた時、動画を撮っていたソイツが口を開いた。

「あーお前だ。そのサルみたいにデカい耳、茶髪の地毛、やや赤みがかかった顔、それにピンチになるとオーラをまとってキンパツになりそうなその雰囲気、絶対間違いねーわ。てわけでさ、唐突だけど俺の仲間としてYouTubarやれ。」

これには今の状況分かってんのか!とかふざけんな!と言って突っぱねるのが普通の反応だと思う。でも、俺は違った。俺の人生柄、どんなヤツでも見殺しにすることはできなかった。

「オイ!そんなこと言ってねーでまずは自分の心配をしろっつの!」

って言いつつ俺はソイツを助けに向かってしまう。昔っから正義感が強かっただけに損をすることも多かったが、それでもそれが俺のアイデンティティーだ。

「ん?何だ貴様、関係者か?やけに親しそうに見えるが。」

誤解だ、と言いたいところだが、そんな暇があったらコイツを背負ってでも逃げる!そうでもしないとコイツの人生と俺の十年間が台無しになる!まだ動管省の奴らとは距離があるから逃げ切れるはずだ。

あぁっ、しぃっ、をぉっ踏み込んでぇっ…

「オモインダヨオマエェッ!」

俺が背負っているコイツの背負ってるリュックはなぜかメチャクチャ重い。ったく、何が入ってんだか。まあ何にせよ早く逃げねーと。

「っしゃらあああああああああああああっ!」

「ヌ~ルルル~、ヌ~ルルル~。(サイレンの音)」

まだ動管省の間の抜けたサイレンは遠い。音の大きさからして直線距離で300メートルぐらいか。これなら、大丈夫そうだな。

何せ耳が良くてよかったって思ったことなんて今回の件の他には飲食店で飯食う直前に腐りかけの飯を出しちまった的な情報を小耳に挟んだ事となんとなく不整脈っぽそうなじいさんに病院を進めたら後日めっちゃ豪華な菓子折りくれた事ぐらいしかなかったしな。

はあっ、はあっ、それにダテに長年運動ばっかやらされてた訳じゃねぇぜ。まぁ、だからといって何で人一人背負いながら撒けたかとかは気にしちゃ、ダメだぞ。

だってフィクションだもの。

動管省を上手く撒けた俺は背負っているソイツをおろした。

「ブロロロロロロッ!」

車の追手か?不覚だっ…

「ドオンッ!」

急に来た車は降ろしたソイツに直撃し、当のそいつはきれいなトリプルアクセルを描いてからの雑な着地によって気絶してしまった。

「ガシャアッ!」

えげつないぐらいに勢いのあるドアの開きかただ。

「ウ~ン、誰か轢いちゃったカ~。勲章持ってないし、まあどっかの山奥かコンクリートにでも埋めておけばどうにかなるデショ。ソレハいいとして助けに来たぜい、由自ィ!イヤ、ブラザー!」

カタコトの日本語が聞こえた。良くも悪くも、どうやら背負ってたコイツの連れっぽい奴らが二人助けに来たようだ。念仏でも書いてあるのかっていうぐらいに文字の羅列が入っているタイプの違う意味で痛いバンの中に、ガリガリにやせ細っていて、ゾゾスーツに直で白衣、下駄、そして茶色のいかにもチャラい度付きグラサンにクソデカい虹色アフロという超前衛的なファッションをした背の高い男性が一人と、バスターソード持ってる某ソルジャーのようなボッサボサのパツキンにカタコトの日本語、とさっきのサイコパス発言が特徴的な迷彩模様の服を着た背は小さいけどデカい所はデカい運転手の女性が一人乗っていた。男の方は車の窓をウイィンと開けて何も言わず、「カ~モンベイビー、アメリカ!」のポーズで俺に車に乗るように促した。

あれだけの格好をしておいて無言なのは妙にイラッと来るが、気にしてはいけない。このご時世、スルースキルを身に付けるのは大事だからな。でも確かに共犯になりかけている以上、走るより車で逃げた方が確実だ。俺が再度、ソイツを背負った重い腰を上げた途端の事だった。

「いたぞ!」

くそっ、もう追いつかれ…るな。当たり前だろォこんなん!こんな痛車目立つに決まってるわ!そんなところにさっきの男性が無言で手を出してきた。…だから何でさっきから無言なんだよ!イラッとすんだよ、ソレ!とはあえて言わず、俺はその男の手にしがみ付いた。そこまではよかったのだが、ガリガリの体格で俺達二人(+荷物)の体重を支え切れる訳なんかはなく、俺たちは手を出した男もろとも車外に放り出されてしまった!

何で手ェ出したんだよっ!

もはやスルースキルどうこうとは何だったんだろうか。

とまあ三人転んできたところを心配した女性が車から降りて駆け寄ってきたが、そんなこんなで動管省の奴らに囲まれてしまった。

「クソッ!?囲まれた!」

なぜかガリガリ虹色アフロはプラカードを介してしゃべっている。

何でプラカードで喋ってんだよっ!と言っても男からの返事がない。

ただの へんたいの ようだ。

ただそれはいいとしても納得いかない点が一つだけある。確か、動画を取り締まる動画法は動画サイトへの投稿自体を制限する法律であるのに対して、今回は動画を撮影しているだけなのに異様に追手のすごみがある。

確かに動画を撮影するだけならば違法ではないのだが、投稿を疑われて警察署に連行されて面倒なことになる可能性が高い。けれども、今俺達を包囲している動管省の奴らの上には戦闘機までもが飛んでいる。これは俺が塀の向こう側にいた期間中に政府の体制が変わったとしても、いくら何でもおかしいとしか言いようがない。そんな中、俺達を包囲している動管省の代表格である赤と白の斜め縞の人物が口を開いた。

「その赤く染めて伸ばした髪、それで変装でもしたつもりか?もう諦めろ、場中 由自(ばなか ゆうじ)!お前はこんなくだらん世界に住んでいい人間ではないはずだ!」

俺は今一瞬、動管省の一人が放ったこの言葉の意味が分からなかった。だが、あることを思い出した。

「ほえ~、最近首相変わったのか。場中 勲(ばなか いさお)っつーのかぁ。」

ってことはまさか…

その瞬間、場中 由自が目の色を変えて立ち上がった。某スタンドのように何かが乗り移っているようにも見える。

「私は…動管省には戻りません!今まで何不自由なく生きてきた私がいざ父の元を離れて政治家を辞めてみれば、己の不甲斐なさゆえに不自由なことだらけでした。そんな中、とある一つの動画を見た時、私は心を動かされたのです。とあるサルみたいな人はこの不自由な世界の中で、これから自分が受けるであろう罰をかえりみることなく、サルのクセに自由を訴えかけていました。」

失礼すぎんだろ!!

「いや、むしろサルに失礼だね。草。」

「ソレナ。」

「いや何お前らさりげなく俺の思考読んでんの!?」

「イーカラとっとと黙っときな、サル!」

コイツら辛辣すぎない!?

「ただ不自由なく生きることが真の自由じゃない、不自由なことを受け入れて今自分ができることに全力を尽くす事こそがが本当の自由なんだ!!

と。私はそれを聞いて目が覚めました。今までの自分は本当の自分ではなく、父というトラの威を借っただけのヒヨコだったと。そんな未熟者の私に政治家など務まるわけがなかったのです。だから私は「彼ら」とYouTubarとして助け合い、支えあってあなた方と全力で戦います!」

え、「彼ら」ってちゃっかり俺も入れられてね?てかその黒歴史的な名言言ったの、…十年前の俺なんだけど。自分の発言にそんな影響力あると思ってなかったから今すっごい恥ずかしい。恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。いや、ホントに。

「フン、何を。これほどまでに囲まれて逃げられるとでも思っているのか。」

「そうですね。かつての私では絶対に無理だったでしょうが、今は仲間が付いています!」

「スチャッ。」

彼はゴーグルをかけた。どちらかというとゴーグルというよりはガスマスクに近い形状をしているが。

「そうだね、確かに由自は今はただのヒヨコかもしれない。でも成長して、ニワトリになれば皆を起こして何か大きなことができるはずだよ。」

いい加減プラカードじゃなくって普通に喋れ。

「ソウシテ皆の肩を借りれば、戦エル。動画ッテ文化を消させはしナイ!」

俺もまた、男から同じゴーグルをやっぱり無言で手渡され、かけた。彼がポケットの中のボタンを押した次の瞬間にバンから真っ赤な煙がプシーッと勢いよく出てきた。皮膚に当たっただけでヒリヒリするこの煙はおそらく催涙弾だろう。包囲の隊列が崩れた隙に俺を含めた四人がバンに乗車し、運転手である金髪の女が思いっきりアクセルを踏むと、バンからは「にょきッ」と翼が飛び出し、飛行体制に入った。

「ウ~ン、ひっさしぶりに飛行形態で運転するから大丈夫かナァ~。マ、そこはアメリカンジョークってことで何とかなるよね、ハッハー!」

そのセリフは一番パイロットに向いてねーヤツが言うセリフだっつーの!!

「ミンナッ、シートベルトをして手前の手すりにしがみ付イテ!絶対離されんなヨッ!」

「おい、不安しかねー…」

「グオオオオオオオオオオッ、ゴオオオオオオオオオオオッ!」

「あばばばばばばばっ!」

「喋ると思いっきり舌噛むから完全に離陸するまでは喋らない方がいい予感伊予柑。」

とやはり無言の忠告。こういう時はプラカードの方が役に立つみたいだ。バン型飛行機が完全に離陸して俺たちは動管省の包囲網を抜けたが、その先にはあちらの奥の手であろう戦闘機が待ち構えている。ゲーセンのシューティングゲームでよく見るようなレベルのとにかくえげつない弾幕が飛んでいるが、彼女はその銃撃を驚くべきハンドルさばきで一発もあたらずに回避した。それを見て目を丸くした俺に男が得意げに説明した。もちろん、プラカードで。

「彼女はね、進藤 奏音(しんどう かのん)って言って父は元日系アメリカ空軍、母はお医者さんなんだ。まだ日本に帰ってきて三か月ぐらいしか経ってないからカタコトだけどね。それから僕は丸録 珠生(まるろく しゅう)って言って、かつては航空会社に勤めていたんだ。ま、いろいろあってクビになっちゃったんだけどね。」

コイツプラカードあるとめっちゃ喋るじゃん…よく見たら彼の席にプラカードいっぱい置いてあるし。

「どうやら動管省の奴らはうまく撒いたようだね。このバンは僕が改造したものでステルス機能も付いてるから一度逃げられればもう大丈夫さ。ところでさ、君は僕たちと一緒にYouTubarやるよねもちろん。」

これにイエスと言えば俺は捕まる少し前の動管省に追われ続ける生活に逆戻りだから、もちろん俺はこんな奴らに付き合うのはごめんだ。でも、俺はいつも損をする、そんなヤツだ。それに動画法なんてものははっきり言っておかしいと思っている。だからもう俺の気持ちはすでに固まっている。

「まぁまぁま。そもそも俺が待ち伏せしてたってのは計算づくってわけよ、まさか途中で「アイツ」が出てくるとは思わなかったけどな。」

「そういえば、さっきの動管省とのやり取りをライブで流してるんだけどほとぼり冷めた今でも千人以上が視聴してるってさ。マジ卍。」

「なんだって!?」

「ほらこれこれ。「憩」って書かれたアイコンの「イコイチャンネル」っていうのが僕らのチャンネルなんだ。もう始めてからかれこれ二年くらいは経ってるけど総再生回数十億回を目指して活動しているんだ。」

この状態で捕まれば懲役十年なんかはくだらない。俺がおそるおそる進藤さんの方を向いて助けを求めようとすると、

「今話しかけないデ。墜チルわヨ。」

これはアメリカンジョークじゃないな。ダメだこりゃ完全に断れない流れじゃねーか、こんちきしょう。もうこうなったら乗り掛かった舟だとかなんとやらだ!

「俺は去川 映叶!なりゆきだけどお前らと一緒にYouTubarやってやろうじゃねーか!!」

「言わなくても名前ぐらいみんな知ってるよ。さっきの一連の流れは君がこのイコイの一員になるように仕組んだモノなんだから、ってこれさっきも言ってたけどね。」

もしかして俺、動管省よりもヤバい奴らに目を付けられてたんじゃ…

こうして俺はひょんなことから動画の自由投稿化を目指して戦うことになった。