ラプア 第5話

「ガチャッ」

と鍵の外れる音がして、

「ギイイイイッ」

と錆びた奇妙な音を立ててこのテーチ城の開かずの扉が開いた。ちょうどその時わたしは「存在しない何か」を感じた。扉の方は軽い気持ちで試してみただけだったので、まさか開くとは思わなかった。同伴しているポリュビオスとスタとラウンも同じように驚きを隠せない様子でいた。

「とっ、とにかく驚いている場合じゃない、中を確認してみようぜ。」

とスタに言われてわたしは我に返った。開きかけのドアを開けてみるとそこは、何かの研究室のような場所だった。ラウンが小さい玉ネギのようなものを見つけ、勘違いしたのか手に取るなりすぐにそれを口に入れた。そして吐き出した。

「ウエッ、ずいぶんマズい玉ネギだな。そのくせ小せぇし。何に使うんだ?こんなモン。」

「知らねーのか?ラウン。これはチューリップって花の球根だよ。」

「言わば花のもとですね。」

「花?そうか俺は北国育ちだから花なんて絵ぐらいでしか見たことないんだよな。」

「城の外庭にはたくさん咲いていますが。」

「人には興味あるけど物には興味ないからな。それに城を出たこともほとんどないし。」

「まあとにかくソイツは食いもんじゃねぇからな。」

「私の生きていた時代には本当にチューリップの球根を玉ネギと間違えて食べてしまった船乗りがいたそうですからね。」

「マヌケなやつもいたもんだな。」

「そう言うオマエがな。」

「...」

「そういえば、もともとこのテーチ城はチューリップによって建てられたものなのですよ。」

「どういうことなんですか?」

「まずは私の生きていた時代、十七世紀のオランダの歴史について話しましょう。この時代はチューリップの値段が以上に高騰し、急落したチューリップバブルと呼ばれる時代です。私が仕えていたパーロット様は元はただの一商人だったとおっしゃっていました。当時のトルコの輸入品を扱っていたそうですが、ある時期を境に輸入品であるチューリップの球根を売るとあまりの需要の多さによる奪い合いが起こるようになったそうです。主人はそれに便乗し、球根の値段を三倍、五倍、十倍と上げていきました。すると、自分で使うには有り余ってしまう程の大金が手に入ったそうです。そしてそのお金で建てられたものが…」

「このテーチ城って訳ですね。」

「そうです。」

「見た感じですとこの部屋はチューリップの品種改良を行うための研究室だと思われます。多くの品種の球根が規則正しく並べられている辺り交雑育種法を試みていたのでしょう。」

「コ、コーザ…?」

「交雑育種法というのは異なる二種類の品種を掛け合わせて新たな品種を作ることです。あまり良い例とは言えませんが、人間で例えるならハーフや混血に近いです。」

「あれ?ってことはチューリップって種ができるのか?」

「ええ、球根はクローンに当たるものであるため親と色や背丈が同じものが咲きますが、種子では他のチューリップと受粉しなければならないため、親とは性質の異なるチューリップができるのです。色も形も無造作なチューリップが並ぶよりも同じ性質のチューリップが並ぶ方が好まれるので、チューリップは球根で育てられるのがメジャーになっているという訳です。」

「ふーん。」

「しかし私はこの部屋を見てやっと謎が解けました。」

「何のだ?」

「私の主人が急にこの場所にこもりっきりになってしまったことです。」

「…ワイもそれについては気になってたんだ。ポリィが良ければ、それについて教えてくれんか?」

「はい。」

わたしたちがこの謎がもたらした渦に巻き込まれるということは、今は知るよしもなかった。

拝啓、天国の父様、母様へ。突然開いた開かずの間でなんとなく分かったことは、この城はチューリップと何か深い関係がありそうなことです。また何か分かったら、こうして日記に記していこうと思います。ビーより。

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