ラプア 第6話

ペテン師

このチューリップだらけの実験室でポリュビオスは静かに口を開いた。

「ここに来て間もないビーさんもいるので、まずはこの城の主人であったパーロット様の事から順を追ってお教えいたしましょう。先ほど言った通り、パーロット様はかつてはただの輸入品を扱うだけの商人だったと言います。当時は決して裕福であったわけではなかったものの、奥様と一人の娘様と一緒にあたたかい家庭を築いていたようです。それは私がこの城に仕えるようになってからも同様の事でした。

ある日、奥様がペストによって若くして亡くなりました。悲しみの淵に立たされたパーロット様はこのような悲しみが二度と起こらないよう、世界でたった一人の家族である一人娘のフリンジ様を一生をかけて大切にすると誓っておりました。

それからパーロット様はフリンジ様のために、より一層商売に力を入れるようになりました。将来のことを考えてピアノや乗馬、それに上流階級としての礼儀作法なんかも習わせていました。

しかしながら、チューリップの球根の価格の高騰に伴い、パーロット様自身も球根を仕入れることが段々と容易ではなくなってきました。城内では当初百人はいたであろう使用人の数も、その時にはもう三分の一ほどになっていました。フリンジ様のためにさせていた習い事の授業料も半端なものではなかったですから、パーロット様の生活は圧迫され、とにかく身を粉にして商売をしていました。私達使用人もそのようなパーロット様の様子を心配して何度も声をかけたのですが、これは自分自身の問題だ、と聞く耳を持ちませんでした。このころから、パーロット様は変わり始めてしまったように思えます。もしもこの時、私達がパーロット様の異変に気付いていれば、パーロット様はたった一人の家族を失わずに済んだのかも、分かりません。それと、これは後で分かったことなのですが、私達使用人の声に聞く耳を持たなかったのは自分の問題に使用人風情がしゃしゃり出てくるな、ということではなく、いつも生活を支えてくれている私達に助けを求めることが申し訳なかったというのが理由だったようです。

ただ、現実というのは無慈悲なもので、パーロット様があり得ないほどの大金をかけて一生懸命に球根を仕入れていく中でも、球根の価格は高騰していくばかりでした。チューリップの球根の相場について話すと、上がったときは球根一つにつき、2500ギルダーもの値段が付いたと言われています。当時の熟練の職人の年収が150ギルダー程度であったことを考えると、この価格がどれだけ異常であるかが分かるでしょう。これによってパーロット様はついに借金をしてまで球根を求めるようになってしまいました。

それからはあっという間でした。パーロット様は球根を手に入れるために必死になり、当初のフリンジ様を大事にするという目的さえも忘れてただひたすら球根を仕入れるために、大金をむさぼるモンスターへと変貌しました。球根を売ることさえできれば買い直せるからと言って、別荘を売り、農地を売り、宝飾品を売り、さらには奥様の形見である指輪までをも売ってしまいました。パーロット様はチューリップの球根に魂を売ったのです。もちろんそれでもお金は足りず、私を含め、使用人は全て解雇されてしまいました。まあ、それでも私はとある理由があってパーロット様に一生ついて行くつもりだったので、無償でもいいからという風にしてお供させてもらいました。

そしてパーロット様は恐ろしい決断をしてしまいました。球根を買うお金を工面するために何と最愛の娘であるフリンジ様を質に入れてしまったのです。一世代の成り上がりであるとはいえ、上流階級の娘ですから球根を買うのに十分な高値で取引されました。なぜこの城を差し置いてフリンジ様を質に入れたのかは分かりませんが、私が気付いた頃にはもうフリンジ様はテーチ城にいませんでした。

事の重大さに気付いて正気を取り戻したパーロット様はフリンジ様を買い戻すべく、売値がより高い柄付きのチューリップの球根を作るために必死になってこの研究室に引きこもりました。私はただこの部屋で引きこもっただけだと勘違いしていたパーロット様に代わって人づてにフリンジ様を捜索しました。そして、フリンジ様を質にしたという商人の元にたどり着きました。フリンジ様はと聞くと売りさばいた、という最悪の答えが返ってきました。約束が違う。彼のやっていることはただの詐欺だ。彼はペテン師だ。私はそう思いながらも、フリンジ様を絶対に見つけ出すべく、彼から大金を奪い取って路銀にし、フリンジ様を買ったという人がいる街へ急ぎました。」

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