ラプア 第8話

7:20

「う~ん、ってことはこの部屋はそのフリンジ様を買い戻すため、チューリップの球根を品種改良して単価の高い品種を生産するためのものだったってことか。」

「ごく勝算の低い賭けですが、普通に働いて稼ぐだけではまず見ることすらできないほどの大金でフリンジ様を質に入れた以上、斑模様などの特に価値の高い品種のチューリップの球根を大量に生産することぐらいしか買い戻す方法などないですから。」

「あれだけ自分を狂わせたチューリップにすがることしかできなかったなんて、皮肉な話ね。」

「そうだな。」

「私がテーチ城に戻ってきたころにはすでに、そこは地元で評判の幽霊屋敷と化していました。どうやら、十年以上も廃墟になっていたこの城にたくさんの幽霊が棲みついて来たようです。また、パーロット様はチューリップの球根の価格が急落してすぐに首を吊っていたそうです。…無理もない話です。」

「故意ではないにしろ、大事な人達が周りからいなくなってしまった上に、球根の価格の急落によって何十世代後にまで降りかかってくるであろう程莫大な借金を背負っちまえば誰だってそうするしかねーな。」

「唯一、幸いだったのはその借金を肩代わりしなければならない身内がいなかったことですね。フリンジ様と私は行方不明となっていましたから。」

「…」

わたし達は陰鬱な雰囲気を拭えぬまま、なぜ開いたかも分からない開かずの間を後にした。

「お次はこの部屋です。」

「は~っ、できることなら先にこっちに行きたかったぜ。」

ラウンがそう言っているこの部屋は、きっとフリンジという人の部屋だったのだろう。部屋には大きなピアノや、バレエのレッスン用の大きな鏡と手すりなんかがあり、棚にはいかにも女の子らしい、薄いピンクのレースの装飾が付いた箱や、手入れがよく行き届いていてきれいな人形が飾られている。が、今回は騙されない。あの箱と人形は食事で集まったときになんとなく見覚えがある。ただ、驚かされて驚くフリをするにしても、今はそんな気分じゃない。周りの表情も暗いままだ。その辺を察してくれれば助かるんだけど…なんて思っていたら、予想外の出来事が起きた。

「う~んとぉ、ずいぶん暗い雰囲気になってるみたいだからぁ、ちょ~っと一芸披露しようかぁ。」

「待ってたぜぇ、キップの十八番!カードマジック!」

どうにもふしぎな、というより怪しげな箱の幽霊がねっとりした口調でカードを切り始めた。驚くべきことに、スタとポリュビオスはさっきの事を忘れたかのように見入っている。

「は~い、この中から三枚選んでぇ。」

二人が見入る理由を探りたいのもあって、乗り気ではないけどわたしは前に出されたカードの中から三枚選んだ。

「アタシに見せないで確認してねぇ。」

選んだカードは

1:わたしの顔

2:回転を表す矢印

3:もう一人の人形の幽霊の顔

が書かれていた。すべて確認し終えると、わたしは無意識に後ろを向いた。

「うぎゃあああああああああああああっ!」

そう、さっきまで棚の上にいた人形の幽霊がわたしのすぐ後ろにいたのだ。

「おやおや、大声なんて上げちゃってぇ。ストリンドベリを見て、よっぽど楽しんでくれたようですねぇ。ちなみに彼女は人形だからか何だかで心を読むことが出来ましてねぇ。」

「そうじゃなくって…」

「は~い、次は四枚選んでくださいねぇ。」

無視かよ。

「よどみねーな!気に入ったぜ!」

ラウンもいつの間にか楽しんでるし。わたしは何も楽しくないんだけど。

「ビー、こういうのはなぁ、楽しまないとソンだぜ。他人のことにまで思いやりを持てるのはええことだけど、今のビーは会った時とおんなじ顔をしてる。悲しい思い出はいつまでも胸に突き刺さるだろうけど、いつまでもくよくよしてちゃ何にもできないだろ?だから、ワイは楽しいときは笑う、悲しいときは泣く。いつでも全力でな。」

「…分かった。」

わたしの表情は少し和らいだ気がした。そして、わたしはカードを四枚選んだ。

「いちまぁい、にぃまぁい、さんまぁい、…あれぇ、一枚足りなぁい。」

どうやらわたしは間違えてカードを五枚引いていたようだ。引いたカードは、

1:またしてもわたしの顔

2:まっすぐを表す矢印

3:7:20(時間)

4:きれいなハートマーク

5:二人

と書かれている。

「七時二十分までもうすぐですね。あと3、2、1…」

「う、ウソ!」

わたしは目の前に現れた両親の姿を前に、立ちすくんだ。

拝啓、天国の父様、母様へ。わたしはスタに大事なことを再確認させられました。これからも教えてもらった事を糧に、父様と母様の分まで生きていきます。ビーより。



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