アスノソラヘ 第1周

四月初めの快晴の昼下がり。今日は絶好の入学式日和、だと思っていたのは大きな間違いだった。

第1周

ハジマリ

「すがすがしく晴れた今日は、えー、本校、彩虹高校の入学式をするにあたって、えー、絶好の日であります。

中略

えー、というわけで、えー、新入生はもう社会的に大人であるからにして、えー、しっかりとした志を持って、えー、この三年間を過ごして欲しいと思います。」

長い、長すぎる。立ったまま校長先生の話を四十分も聞かされるのもそうだが、同じことを何回も言う挙句に何回「えー」を連発されたか。周りも「えー」が多すぎだろとか、さっさと終われよなどといった大きな独り言が聞こえてくる。これはこれでひどかったのだが、これから始まる新入生の答辞はある意味、もっとひどかった。

「答辞。新入生代表、雷電 響(らいでん ひびき)!」

「は~い!」

すると、だらしない返事とともに俺の斜め後ろにいた、曲がった背中に腰パン、ポケットハンド、オレンジに染まったボサボサの髪、入学して間もないのに改造した長ラン、といったいかにも校則に引っかかる見本みたいな奴が立ち上がった。

彼が壇上に上がった瞬間、のどかな快晴の中で「ピィィィィィィシャァァァァァァァッ、ズゴォォォォォッ!!」と今まで聞いた中で最も大きいであろう雷鳴が轟いた。そして、その雷が流れたかのように彼の雰囲気が変わった。眠そうなまぶたはシャープになり、両眼の瞳から稲妻が走っているように見えた。俺はピリッとした緊張感を感じた。きっとそれは俺だけじゃなくって、ここにいる他の皆も感じたことだろう。

「答辞、本日は私たちの入学式にふさわしい、大変のどかな天気で、天も僕らを祝福しているように感じます。」

どこがだよ。さっきおもっきしクソデカい雷鳴ってたぞ。

「ところで、皆さんはこのサイコー、もとい彩虹高校に入学して何に力を入れていきたいとお思いでしょうか。私は名門と呼ばれた本校の陸上部のレギュラーを差し置いて、インターハイに出場する事が第一の目標です。」

場内がざわめきだした。当然だ。なぜなら総勢100人を超える名門陸上部でレギュラーを取るなど、インターハイに出場するよりも至難の業だからだ。それにそもそもここの陸上部はスポーツ推薦で入学した人しか入れない。それ以外は同好会止まりだ。

「だから、スポ推だか何だか知らないけど、文句ある奴はかかって来な!」

「へえ、じゃあ君は同好会チームとしてこのボクらと勝負するって、ことか。」

「あれはサイコー陸上部の主将兼生徒会長の虹 走真(にじ そうま)だ!」

さらに場内がざわめきだした。

「詳しい事は知らねぇけど、推薦で入らなければ入部できねぇんだろ?だったらそれでいいぜ!」

「なら決まりだな。明日の午後三時、校庭の第一トラックに集合してもらう。部と同好会、どっちが上か白黒つけてやる。」

「へっ、ジョウトウ!」

もはや荒れすぎてて答辞でも何でもなくなっている。

「じゃっ、俺怒られたくねーからかえるわ。」

「待ちなさい!」

さすがに見かねた先生や生徒たちが出口を塞いだのだが、奴は塞いでいる中で一番背が低い、150㎝ぐらいの人を狙って背面跳びからの受け身で見事にくぐり抜けてしまった。

周りからは「何て奴だ。」とか「サルかアイツは。」といった声が聞こえてきた。

入学式後のクラス会は大荒れだった。担任がひたすら父兄の人たちに説教されるという類を見ないものだった。その後は理事長の孫である虹部長がクラスに入ってきて、これ以上不満を言ったら入学取り消しにするといった権力でその場をいさめた。ちなみにサイコーは陸上の単願推薦者が数多いので、これが良く効いた。

次の日、通学で自転車に乗っていたら例の雷電が走って俺を追い、赤信号で追いついて話しかけてきた。もちろん面識などない。

「俺、雷電ってんだ。」

知ってる。

「…背ェ高けぇな~オマエ、んでお前何て言うんだ?」

「安曇 刻夢(あずみ きざむ)だけど?」

「なあお前、結構走れるだろ。同好会入らねぇか?」

「いや、興味ない。」

「部室だけでも見に来いよ。ま、俺もまだ見てないんだけどな。」

「やだよ。しかもなんか今日のレースに同好会が負けたら廃部だって言ってたぞ。」

「誰が?」

「答辞の時にお前と話した部長。何でも、理事長の孫だから廃部にするのは造作もないみたいなことまで言ってたぞ。」

「へ~え、だいぶナメてるみたいだなァ、部長さんよぉ!」

「ずいぶん自信あんだな。」

「まあな。それはそうとして、学校まであと500mぐらいあるからちょっと競争しない?陸部に勝つためのアップになりそうだしさぁ。」

「正気か?そんなリュックまで背負って…」

「まあ多少は入ってるけど授業ないから軽いし大丈夫だろ。」

俺は自転車に乗って、奴はリュックしょって走るなんてよほどのことがなければ負けることはない。

「ああ。しかもここは歩道がムダに広いから事故にも迷惑にもならないしな。そんでスタートはここの信号が青になったらでいいか?最初は登り坂だから自転車相手には丁度いいぐらいのハンデになると思うんだけど。」

確かに自転車でスピード出すにはかなりしんどいぐらいの激坂だ。ヤツにとってはいいハンデになるかもしれない。

「わかった、その勝負乗った!」

「決まりだな。」

奴はリュックの前をパチンと二か所、固定した。

「・・・」

「スタート!!」

やっぱ言うだけあってこんな登りでも足の回転が速ぇ!それにこんな中、一切乱れないレベルのメチャクチャきれいなフォームしてやがる!こっちはこっちでオンボロのママチャリ(ギアなし)だから登り坂の250mで20秒ぐらいも差がついちまった!でもこっから150mは下りだ!ママチャリとはいえ下りならかなりのスピードが出るはずだから追いつけるはずだ!

「シャァァァァーーーーーッ!!!」

雷坂の奴は息切れし始めてる。当たり前だ。陸上では無酸素運動と有酸素運動との境目にあたる400mが最もツライと言われているんだから。

「ハッ、ハッ、フッ、ハッ、ハッ、フッ。」

「シャァァァァーーーーーッ、ギィィィィィィーーーーッ!」

これであと100m。3秒強の差だ。最後の校門までの平坦だったら下りからの勢いもあって10秒ぐらいで走れる、さすがに追いつける!

「ハァッ、ハァッ!!ハァッ、フッ、ハァッ、フッ!!!」

奴も最後だからペース上げてきてるけど、これはもらった!!

「ジジジジジジジジィィィィィィィッ!!!」

校門前だ!

「タタタタタタタ、タッ!!」

「お先に。」

この時、俺は前代未聞の加速を目の当たりにした。そう、奴は最後の100mを12秒台で走り抜け、自転車相手に500mで勝ってしまったのだ。それと何だろう、ゴールの直前に口を開けてもいないはずの奴が何かを喋ったように感じた。

そういえば聞いた事がある。当時初心者にも関わらず、全中に800mで出場した猛者がいたと。その二つ名は、「雷帝」!!

もしかしたらコイツ、ホントに陸部の連中に勝っちまうのかもしれん!!

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