アスノソラヘ 第2周

「キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。」

「というわけで明日からは日直回していくからな。忘れはもう一回だぞ。それと今日から部活や同好会の見学があるからいろいろ見てくといい。はい、今日は解散!」

「ガヤガヤ…」

「めんどくせえ、名字が「あ」から始まるってだけで周りよりも確実に一回多く日直やらなきゃなんねーし。」

「おい安曇ぃ、何一人でぶつぶつ言ってんだ?」

もっとめんどくさいのが来た。

第2周

ライメイ

「…お前はいいよな。出席番号最後から二番目だし。」

「なんの話だ?」

「何でもない。雷電には一生わからない話だ。」

「なんだ、そりゃ。っつーよりもさ、陸上の同好会、見に行くんだろ?早く行こうぜ。」

皆さんこんにちは。安曇 刻夢です。今寄ってたかって来たのは入学式の答辞で盛大にやらかしてくれた雷電 響くんです。俺は今朝、彼に巻き込まれて興味もない陸上同好会の見学に行くことになりました。彼は同好会に入るようですが、今日の彼と陸上部とのレースで負けたら陸上同好会は廃部になるそうです。面倒なのでうまいこと逃げてやり過ごします。頑張ります。

「ここが同好会の部室か。なんかボロボロで幽霊でも出そうな雰囲気だな。おまけにここだけ部室棟から隔離されてるし。」

「ギイッ、バタン。」

「待ってたよ。噂は聞いてる。」

「ゆ、幽霊…」

中にいたのはやせてるというよりかはやつれてる髪の長い幽霊みたいな人が一人、部室の隅っこに座っていた。

「もう一人の方は知らないけど、オレンジの髪の君が雷電君だね。僕は二年でここの部長をやってる時雨 喬佑(しぐれ きょうすけ)。って言っても部員は今僕と幽霊部員が一人いるだけなんだけどね。」

幽霊だらけじゃねーか、ここ。

「ふーん。あ、紹介がおくれました。ま、何で知ってるか知らないんスけど俺、雷電 響っていいます。ライディーンとでも呼んで下さい。」

ライディーンってなんだよ。初めて聞いたぞそんなん。

「で、コイツは俺と同じく同好会入部希望の安曇 刻夢って奴です。」

「今年は二人か。まあもう廃部だから意味ないけどね。」

まああの虹って部長、確か全国でも上位に入賞するらしいからな。ってオイ!何で俺も勝手に入れられてんだよ。

「走るんでしょ、今二時だからそろそろアップ始めた方がいいんじゃない?ライディーン君。」

もうライディーン定着してる!!

「うっす。じゃ、失礼します。」

「タッタッタ。」

ちょいまち。いきなり三年生の先輩と二人っきりとかやめてくれよ。ただでさえ俺人見知りするのに。こんな幽霊みたいな病んでそうな先輩とか。

「あっち(陸上部)の方も準備するだろうから、手伝いに行こうか。」

なんだ、よかったー。絶対気まずい雰囲気になると思った。

「手伝いが終わる頃には三時ぐらいになってるだろうから。」

「そうっすね!」

「ガチャッ。」

「ポッ、ポッ。

ザアアアアアアアア。」

「雨、降ってきましたね。」

「そうだな。雨でもレースはやるだろうけど止むまで手伝い待ってようか。」

気まずそうにすんなよ!!確かに雨の中手伝うのヤだしやることもなくなっちゃったけどさぁ。

「これしかないけど陸上マガジン、読む?」

クソ、興味ないから一ミリも魅力を感じねえよ。

「読みます。」

沈黙の中で一時間弱待つよりはさすがにマシなんだけど面白くねえ。

「さあ、そろそろ三時だから行こうか。」

長かった。ようやくこの生き地獄から解放される。

「第一トラックはちょっと遠いからね、少し急ごう。」

まだ土砂降りだ。確かに雪とか雷じゃ無ければレースやったりはするらしいけどこんな中レースとか陸上バカは頭がおかしいんだな、きっと。

「着いた!へえ~、ずいぶん立派なトラックだな。この辺じゃ一番大きいんじゃないかな。しかも客席も百人ぐらいはいるんじゃねーか?…けど雷電の奴いなくねーか?」

「どうせ廃部になる運命。これもアリだな。」

「でもまだ逃げたってわけじゃ…」

「あれだけ大事にして逃げたのならただじゃおかないがね。」

虹部長!

「やあ、時雨!と君は…あっ、同好会なら廃部するから別のクラブを進めるよ。」

何で俺同好会入る気無いのに憐みの目をされなきゃいけないんだよ。

「おーいお待たせ!!」

「来たか。何分遅刻したと思っているんだ。」

客席はブーイングの嵐だ。

「悪い悪い。ちょっと野良犬に追いかけられてね。おかげさまでいいアップになったよ。」

「それは良かった。逃げなかっただけ褒めてやるよ。まあ、廃部には変わりないけどな。」

「レースの形式は?」

「800mだろう?君の種目は。」

「助かる。さすがに3000mSC(3000m障害)とか5000mW(5000m競歩)とかじゃやったことないから失格になりそうだしな。」

「奇遇なことにボクも800mがメインだからね。一対一の直接勝負と行こうじゃないか。」

「さあ、かつてない大雨の中、始まりました。陸上同好会の命運がかかった800mのレース!!

選手は我らが陸上部の部長、そして生徒会長に理事長の孫!!3レーン、虹 走真!!」

「キャー!!ワー、ワー!!」

「そしてこのサイコー、もとい彩虹学園きっての新入生問題児!!4レーン、雷電 響!!」

「ブウウウウウウ!!」

露骨だな。反応の差が。

「このネチャネチャした声質、実況は高野先生だな。」

いや知らないから。誰だよ高野先生って。

「それでは始めます。」

「オンユアマークス。」

「… … …」

「パアン!!!!!」

「いきなり速っえ!!」

「行け!行け!行け!虹!頑張れ!頑張れ!頑張れ!虹!」

「うわっ!」

「すごいな、声援。僕らの声が聞こえにくくなってる。スタートはほぼ互角だ。セパレート切れることを考えるとインコースの虹がちょっとだけ有利だけど。」

「セパレートってなんですか?」

「ああ、セパレートっていうのは…」

陸上メモ

セパレートとは決まったレーンごとに選手が分けられた状態のことを表す。100m、200m、400m、110mH、400mH(Hはハードルの略。)はセパレートが切れず、選手が決まったレーンを出ると失格になってしまう。800mの場合は100m地点でセパレートが切れ、決まったレーンから出ることができる。

「…なるほど。つまり今回は100m地点で二人が合流するってことか。」

「陸上やるのに知らなかったのか…」

やらないつもりなんだけど。

「いやあ、小学校の時に陸上はやってたんですけど補欠にすら入ってなかったもんで実際のトラック競技、見たことなかったんですよ。」

「そういうことなら追々覚えていけば大丈夫だよ。…廃部するけど。」

「おい!200m地点でさっそくウワサの新入生、遅れ始めてるぞ!」

「アホか!800mってのは2周目からが勝負なんだよ。」

「レースが動き始めてきてるな。それにつれて議論も活発になってきてるね。」

「300m地点で一秒差ぐらいか。」

「チリチリチリン!!」

「先頭の虹部長が400mを過ぎた!!55秒!」

「先頭がラスト一周になるとゴール地点のベルを鳴らすんだよ。」

「へ、へえ~。」

マジでどうでもいい。

「あっという間にバックストレート(500~600地点)にさしかかっている!三秒ぐらい差が付いた以上、もう虹部長の勝ちだ!!」

いや、まだわからない。今朝のアイツのラスト100mの伸びはハンパじゃなかった。

「行け!行け!行け!虹!」

「ラスト200m!…あれ?2秒差ない?」

雷電のペースが上がり始めている。

「あの新入生、なかなか速くないか?ここから全力疾走ならもしかして…」

「いや、見かねたのか虹部長もペースを上げた!!まだわからない。」

「ピシャアアアアアッ!!!!ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!」

「な、何だ?今の。雷?」

「すっげーでっかい音したなあ。」

「あれ?レースは?二人とも止まってるけど。」

「はあ!?」

…ったくチキショー。今の雷が俺の走りのジャマさえしなければ勝ってたってのによぉ。

…昨日以上にひどい雷だった。今ので止まっていなければ命まで落としていたかもしれない。

でもヤツ(アイツ)の走り…ホンモノだ!!

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