C.A.N JOB2

「…なあ、会社構えたはいいけどちっとも依頼人来ねーじゃん。今ントコ一切の収入がないワケだしさ。それに今までのバイト先行ってみてもみーんな「企業したんだよな?おめでとう!」だとか「私も応援してるから頑張って!」とか中身のないことばっかいわれてさ。辞めたことになってる今戻るのは恥ずかしいしよ。あーもう、どうすればいいんだよコレッ!」

「大丈夫だゼ☆この辺に住んでるヤツ等ならこの会社が困っている人を助ける何でも屋的な会社だっていうのは分かってるからな!依頼人が来ねーのは単に人気と評判がねーからだ。まぁ、ヒマならこのビラでも配って来いよ!!」

JOB2

初めての依頼人

「…え?このビラ、もしかしてキャンが作ったのか!?」

「ったりめーだ!オイラのシゴトはオマエの理想を全力でサポートするコトだからな。こういう事務的なコトならいっくらでもやってやるゼ☆」

「マジかよ!助かるぜ!んじゃ、さっそく配って来っ…」

「ピンポ~ン。」

「ん?何か宅配頼んでたっけか?」

「ガチャッ!」

「…株式会社カリスって、ここで合ってますか?」

「もしかして、依頼人?」

「はい。」

インターホンを押したのは俺よりも5つほど年の離れているであろう、装飾はきれいだが全体的に薄汚い制服を着た長い黒髪の女の子だった。清楚で品のある感じではあるが、どこもかしこも汚れている。

「…はあ、社員はあなたとそこのイヌだけ、ですか。それなりの中小企業をイメージしていたので、いざ知ってみるとなんだか頼りないですね。」

「イヌじゃねえっつーの!」

「わっ!しゃべった!」

「オイオイオマエしゃべって大丈夫なのか?」

「ここに人気がない以上、喋るイヌがいるって方が人気が出るってモンだろう?客寄せパンダ、的な?」

「イヌなのかパンダなのか分かんねーわ。」

「まあまあ、外出るときぐらいはイヌとして振舞ってやるよ。イヌじゃねーけど。」

「えっとあの、腹話術?が得意なんですね。」

「いや、腹話術じゃなくってオイラはフツーにしゃべるんだゼ☆オイラはキャンってんだ、よろしくな依頼人!」

「え?あ、よろしく。お願いします。」

「さて、本題に移ろうか!」

キャンが目の色を変えてしゃべりだした。つってもいまだに社長の俺自身もこの会社の方針だとか収入源だとか地獄だとかってのが全くわかってないんだけどなぁ、キャンに任せっきりだけどホントに大丈夫なんだろうか。

「ジョーちゃん、ずいぶんと浮かない顔してここに来てたけど何があったんだ?オイラ達がサクッと解決してやるからヨォ!」

キャンは張り切ってシャドーボクシングを始めた。

「…実は、両親が消息不明なんです!」

「ぬわっ!」

キャンの顔が青ざめた。

「なあ、オイ。どうしたんだ、キャン!?」

「先に言っておく。今回のシゴトは場合によっちゃぁおっかねぇのが出てくんぞ。最悪の場合、シゴト失敗どころか死ぬゼ☆」

「…じかよ。」

「人のいのちがカンケーしてるコトだからな。こりゃ、地獄も大荒れだろうゼ☆」

「ようはアイツの不満が大きいってことだよな…」

「しかも大きな不満ってのは地獄の中でバケモノを作り出すからな、覚悟してかかれよ。」

「何をこそこそ話してるかは分かりませんけど、指をさされていい気分はしません。」

「え、ああ。悪かった。」

「そうだ!でもまずは地獄に入らないことには始まらないからな。ひとまずみんな揃って地獄行きだゼ☆」

「え、地獄?」

「ズウウゥン!」

「…ん?ここは、どこなのでしょうか?半透明な人達ばかりで。

…カナ!…あっ。」

消えて、しまった。

「…きぃちゃん!

…タカヒコおじさん!ナナミおばさん!

…どうして、どうして私を見てくれないの!?」

私の目が潤いだしてきた。

「オイ!大丈夫か!?オイ、オイ!」

「ん?え、あ、は、はい!なんか取り乱してしまって、すみません。

えっとあの、なんかここ、ブキミですよね。暗くて人以外は何も見えなくって、ここにいる人たちはみんな半透明と言うか、消えかかっていると言うか。それでいてたまに見える知り合いはみんながみんな、誰一人として見向きもしてくれない、それが今の私の状況にそっくりで。」

「え?いや、まあ、大丈夫だろ。何か、分かんねーけど。」

「は、はい…」

「オイオイ、依頼人を困してんじゃねーよ!シゴトニンか?それでも?」

「キャン!」

「えっと、何ですか?この大きなイヌのような生き物は。」

「…思ったよりもリアクション薄いな、カリスマの時のを見せてやりたいぐらいだ。

オイラはキャンだ。ここだとこの姿になるんだ。」

「そーいやあのさ、そのカリスマっての、もしかして俺のことだったりする?」

「モッチロン、その方が呼びやすいからな。そう呼ばせてもらうゼ☆」

「結構気にしてっからホントはやめてほしいんだよなぁ。(ボソッ)。」

「なんか言ったか?」

「いや、別に。」

「さあ、さっさとシゴトに取り掛かるとしようゼ☆」

「ああ。」

「…フム、この地獄は真っ暗闇の中に半透明な人がまばらにいるって状況か。さしずめ、諦めの中で差し伸べる手無しって心境だろうな。ま、思ったほど大変なシゴトにはならなそうだゼ☆」

「…え?どうして、私の気持ちが分かるんですか?」

「俺も正直信じられねーんだけどよ、この「地獄」ってのは死後の世界じゃなくって人が持っている不満を表した世界なんだと。で、さらにここで起きたことは本人に直接干渉するんだとさ。ぶっちゃけ俺はイマイチワケ分かってねーんだけどな。」

「あっちゃー、やっぱ分かってなかったか。やっぱノータリンじゃこんなモンか。」

「んだとゴラァ!人をノータリン扱いしてんじゃねーよ!」

「ったく、事あるごとに噛みつくな。これじゃどっちがイヌなのか分かんねーっつーの。」

「っせ!」

「まあいい、まずは依頼人!まだ名前を聞いてなかったな、名前は?」

「えっと、茶室 芹華(ちゃむろ せりか)です。」

「…なるほど。ちゃ、せり、ちゃむ…チャームかな!いいか依頼人、今からオマエをチャームと呼ぶことにするからな!肝に銘じとけよ!」

「え?あ、はい、分かりました。」

「それと初シゴトだけどカリスマ、今回はまずここで何をすべきかを言ってみろ。」

「え?初仕事、なんですか?あのオフィスって建ってから数週間は経っていると思っていたのですが。」

「ま、まあ色々あってな。」

「まま、それはいいとしてさ、どうよカリスマ。」

「う~ん。えっと、明かりを点けるとか?」

「バカ…明かり点けたトコでチャームの気分が一時的に明るくなるだけだっつーの、両親に対しての心配が無くなんなければ気分明るくしたってすぐに暗くなんのがオチだ。だからまずはこの地獄でのチャームの親を捜すんだよ!ホンット分かんねーヤツだな、オマエは。」

「んなコト分かっかよ!」

「あの、多分ですけど不満のおおもとを対処するための材料をまず集めないと不満が解消しないってことを彼は言いたいんだと思いますよ。」

「オウ、チャームの方は物分かりが良くって助かるな♪」

「悪かったな、物分かりが悪くて。」

「フン、さっさとチャームの親を捜しに行くぞ。地獄は時間制限があるからな。」

「んだそれ、初耳なんだけど。」

「実はこの地獄ってのはオイラの力で気絶させた人の中に入ってるってワケだからな、気を吹き返すと強制的に外に出されちまうって寸法だゼ☆しかも一度出されたら次はほぼないと思った方がいい。抗体みたいのが備わって地獄に居れる時間が大幅に減るからな。」

「ほーん。で、その時間ってのはあとどれくらいなんだ?」

「う~ん、長くてあと一時間ぐらいだな。」

「はぁ!?クッソ短けェじゃねーかよ!?まばらとはいえこの人混みの中から捜し出すなんてムリだろ。」

「ここでチャームの出番だ。自身の不満の中ならこの真っ暗闇の中でも両親を見つけられるはずだ。」

「えっと、どうやってですか?」

「まずここにはチャームの知人が多くいるワケだ。んでもってチャームは今、現実世界では困っている自分に振り向いてくれない知人に不満を持っているだろ?ってことはだ、知人という名の不満をたどってより大きな不満を順々にたどっていけば最も大きな不満源である両親のもとに辿り着けるってワケだゼ☆」

「なるほど、なんだか自分で自分の心の中を覗いているようでいい気がしませんね。」

「しょーがねーだろ、シラミつぶしに捜してたらすぐに時間切れになるし。」

「…わかりました、始めましょう。」

この地獄を出て以来、私が両親の姿を見ることはなかった。

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