アスノソラヘ 第5周

「えーと、なになに?要するにあの二人が800mのアップ用にトラックを使おうとしたらレーンがかぶって言い合いになったと。でも他のレーンは他の種目の人たちが使っているから奪い合いに発展したと。」

「遠路はるばる来たところいきなりウチのアホがこんな下らんことしててすいませんね。あっ、申し遅れました。私、この楽天寺高校の部長兼顧問を担当しています番野 究(ばんの きわむ)です。今後ともどうぞよろしくお願いします。」

穏やかな雰囲気ながらも堂々としている、というのが楽天寺の部長に対する第一印象だった。まさかこれが良くも悪くもいろんな意味での第一印象だったことはその時の俺は知るよしもなかったんだが。

「これはこれはご丁寧に。僕はこの陸上同好会の部長をやっている時雨です。こっちもウチのバカが迷惑をかけましてすいませんね。粗相をしたら廃部だって圧力をかけられているのにこのザマですよ。

…クション!ハハ、ハハハハハハハ!!」

第5周

ライバル

「あれ、どうかしたんですか?」

「あー、ウチの部長気に障ることがあるとクシャミして人が変わっちゃうみたいなんです。あ、俺は一年の安曇です。よろしくお願いします。」

「まあこんなあいさつとかいう通過儀礼はどうでもいいとして問題はあの二人をどうするかですね。このままじゃ埒があかないし練習もできない。」

うわ、良い意味で堂々としてるって思ってたけど通過儀礼だとかどうでもいいとかずいぶんドライなこと言う部長じゃんか。こういうキャラは正直関わりたいとは思えないんだよなー、5000mじゃなければいいんだけど。

「…ちょっとライディーンに一言かけてくるよ。」

「え?アーメン先パイ?」

「…ゴニョニョ。」

「…あ、アップしてきます。」

あのライディーンがいともあっさりと!…いったい何を言ったんだろう。

「ようし、んじゃ俺っちは空いたレーン使って練習れんしゅ…」

「シズク、アナタもアップしてきて下さい。」

「え?何でっスか?」

「他校に迷惑かけておいてノコノコと練習できると思っていたら大間違いです。少し頭を冷やしてきてください。」

「でもさぁ…」

「返事は?」

「…はい。」

「よろしい。」

何この部長、怖っ。

所変わってトラック外周。

「タッタッタ。」

「…オイ、何で付いてくんだよ。」

「俺っちはそっちに行きたいだけだっての。」

「あ?こんなだだっ広い運動公園で行き先がかぶるってどんな奇跡だっつーの!」

「知るか!」

「お、ヤル気か?」

「上等だよ!」

「だったらあそこのでっかい池まで競争だ!」

「ってやらぁ!」

「ダダダダダ。」

トラック内。

「さて、邪魔者もいなくなったことだし、合同練習の概要を説明を始めます。跳躍と投てきブロックは機材の準備が出来次第測定、短距離ブロックはスタートの練習からレペティションへ移行、長距離ブロックはトラック外周で一時間ほどアップをした後にTTをします。では自分のブロックに移動して下さい。」

「レペティション?TT?」

「あ、そうか。練習メニューについては今までジョグしかやっていなかったっけ。じゃあ一つづつ解説しようか。」

陸上メモ

レペティション

レペティションとは走りと休憩を交互に入れる練習法である。例えば、一本100mを走ったら一分休憩するといったようなことを繰り返す。よくインターバルと混同されがちだが、インターバルは休憩が軽度の運動やジョグであるのに対して、レペティションは休憩が安静であるといった違いがある。つまり、レペティションは一本一本が全力疾走となり、練習の効果としてはトップスピードの維持や向上が期待できる。短~中距離向けの練習。

TT

タイムトライアルの略称で、時間を計って走る。トライアルとも略されることがある。主にレース本番の前日にやることが多く、本番のシミュレーションとしての練習という側面がある。また、自身の実力を試すのにも活用される。

「へ~、んじゃあこの合同練習でいきなりトライアルやる意味って何なんですか?」

「う~ん、多分だけど…実力によってある程度チーム分けをするんじゃないかな。ほら、ベストタイムが違いすぎる人と練習しても全くついていけずに終わっちゃうだけだしさ。」

「…なるほど。」

「とりあえずウチのアホ(ライディーン)を探しに行こうか。」

「…ですね。」

「タッタッタ。」

向かったすぐ先には二人の人影が見えた。おそるおそる近づいてみると、どうやら何か声が聞こえるようだった。さっきの状況から察するに、おそらく懲りずに揉め続けているんだろうと思っていたその矢先だった。

「カッカッカ、オマエサイコーじゃねーか!!」

「ったりめーだろ!ウチは彩虹高校、略してサイコーなんだからよ!!」

「そーゆーコトじゃねーっての!」

「んだよ、ちげーのか。オイオイ、一本取られちまったたぜ、コイツは。」

「さっすがは俺っちのライバルだな!」

「…なんだか知らないけど、意気投合してて…」

「気持ち悪いな。」

「ですね。」

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